シナリオの迷宮 ~あるいは(無恥がもたらす予期せぬ軌跡)

脚本愛好家じぇれの思考の旅。とりとめもなく綴っていきます。

『ホワイト・ゴッド』”都合のいい犬”じゃいられない(軽いネタバレあり)

こんにちは、じぇれです。

今回の課題映画はワンちゃん映画!
101匹ワンちゃんみたいにホノボノできるといいなぁ。
最近精神的にキツいのが多かったですからねぇ。

《地獄の映画100本ノック その10 『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』》

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第67回カンヌ映画祭である視点賞&パルムドッグ賞のW受賞を果たした本作。
鑑賞直後の感想がこちら!

あれ? ホノボノどころかゾワゾワするヤツだ!

というわけで、簡単にあらすじを説明しますと__

13歳の少女リリは、両親が離婚し、心の拠り所は愛犬ハーゲンのみ。でも、雑種には税金が課せられるという条例のために、引き離されてしまい......

もう重い!(^_^)ゞ
でも、まだまだ序の口なんです。
その後、野良犬となったハーゲンは、何人もの人間のエゴによって、壮絶な人生、もとい、”犬生”に苦しめられます。

怒れしDOGハーゲンは、GODのように振る舞う人間たちに反旗を翻すことを決意。
その様がこちら!

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まるで『猿の惑星』のように、虐げられてきたワンコたちが爆走する様は圧巻!
これでノーCGというのだから驚きます。

物語を分析すると2つの軸があります。
①反抗期の少女の心の変遷
②”都合のいい犬”であるよう強いられてきた犬の反乱
この2つを交差させ、深みのあるドラマにしようというのが、監督の狙いだったと思われます。

しかし、①の少女パートが少々甘く、その試みは成功したとは言い難いんじゃないかと。
逆に言えば、②の犬パートが出色の出来すぎるんですね。
ワンコたちの名演技にも支えられて、犬好きというわけではない私でも思わず感情移入してしまうほど。

序盤に”お手”や”待て”を仕込む人間を否定する描写があるのですが、撮影に際してはそれどころじゃない特訓が必要だったはずです。
犬の演技がアカデミー賞ものであるだけに、若干もやっとするところかな。

とはいえ、このワンちゃん達は処分待ちの保護されていた犬で、本作がきっかけで全員里親が見つかったそうで。
処分されなくてよかった!

とまぁ、ダラダラ書いてきましたが、「人間が”都合のいい犬”であることを強いるのはエゴだ」というテーマを、壮絶なアクションシークエンスで見せる衝撃作なのは、間違いありません。

先述の①と②の交差が決まっていれば、更に人間社会の主従関係(親子を含む)についても強烈なメッセージを発せられたはずなんですけどね。

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【今日のまとめ】
ワンちゃんも
心があるんだ
忘れるな  じぇれを

”犬生”も”猫生”も”魚生”も”鳥生”も、そして”我が子の人生”も、人間の気まぐれで弄んじゃいけないよ、ってお話でした。

ではでは、ワンコたちの名演技を楽しんでください!

『ROMA/ローマ』”映画は総合芸術”

こんにちは、じぇれです。

いまだにNetflix会員ではない私は、この日を待ち望んでいました。
そう、『ROMA/ローマ』を映画館で観て参りました!
しかも、平面スピーカーという聞き慣れない最新機器を導入し、最高の音響を実現していると噂のアップリンク吉祥寺で。

鑑賞直後の感想がこちら。

今読み返すと、完全に浮かれてますね。
世界陸上で400mリレーを見た直後のODAさんぐらい浮かれちゃってます(笑)
いや~、ホント臨場感がハンパなかったんですよ。

小さな音が近くで聞こえたかと思えば、遠くの喧騒に眉をひそめ、そして次の瞬間、重低音とともに地響きで床が小刻みに揺れ......
環境音が命の『ROMA/ローマ』を、しっかりと体感できる映画館でした。
アップリンク吉祥寺で観られてよかった!

さてさて、そろそろ映画本編について書きましょう。

※核心に触れるネタバレはしません。というか、ストーリーもほぼ書きません。未見の方も安心してお読みください。

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前作『ゼロ・グラビティ』では、宇宙空間を舞台に”生きる”ことの意味を追究したアルフォンソ・キュアロン
本作『ROMA/ローマ』でも、”生きる”とはどういうことなのか、”死ぬ”と対比させながら、徹底的に追究しています。

ここで描かれるのは約50年前の物語ですが、本質的には”今”の物語です。
そう、私たちの周りにたくさん転がっている、市井の人々の物語。
だからこそ、終盤の30分は胸を掻き乱され、自分のことのように苦悩してしまいます。

このように、過去の物語を自分の物語として体感する上で重要なのが、先述した通り環境音なんです。

美しいモノクロ映像で綴られるこの物語には、ドラマティックに煽る音楽がついていません。
あるのは、ヒロインを取り巻く環境音のみ。
フレーム外の世界を押し広げ、私たちを50年前のメキシコに連れて行くだけでなく、彼女の内面へと誘っていく環境音。
効果音の取捨選択だけで、こんなにも映画が豊潤になるのかと、心底驚かされました。

これぞ総合芸術!

「映画は総合芸術だ!」と人が口にする時、往々にして傲慢さを感じてしまいます。
映画こそ芸術の王なのだと言わんばかりの横柄さ。
なので、私はあまり好まない言葉なんですが、今回だけは使わせてください。

『ROMA/ローマ』という映画は総合芸術だ!

写真の要素、演劇の要素、音楽の要素、そして映画ならではの編集という要素。
これらが合わさった映画が完成するためには、もう一つ大事な要素があります。
それが映画館。
暗闇の中で没入できる環境が、鑑賞を体験に変えてくれるのです。

だからこそ、Netflixが本作を買い付けたことには、少々複雑な気持ちです。
しかし、こうして映画館で体感できる機会を作ってくださったので、もう文句は言うまい。
でも、こういうのはもう買わないで!(笑)


【いつも読んでくださっている方への余談】
「『ROMA/ローマ』はアカデミー作品賞・外国語映画賞を獲得できない」なんて戯れ言を抜かしたのは誰だよ!

。。。はい、私です。本当にすみません。
ちゃんと罰ゲームの《地獄の映画100本ノック》を完遂します。

はっきり言って、作品賞もあげるべき大傑作でした(笑)

『オンリー・ゴッド』”作家主義”とは?(ネタバレなし)

こんにちは、じぇれです。

前回取り上げた『人魚伝説』では、日本の”作家主義”の夜明けとして、ディレクターズ・カンパニーについて触れました。
商業映画においては、監督が本当にやりたいことを妥協せずに貫くのは難しいのですが、それを成し遂げようともがいていたのが、ディレクターズ・カンパニーの監督たちだったんですね。

さて、今回取り上げる映画もまた、”作家主義”に目覚めた監督の作品です。

では、いってみましょう!

《地獄の映画100本ノック その9 『オンリー・ゴッド』》

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監督は、前作『ドライヴ』で多くの観客を魅了した、ニコラス・ウィンディング・レフン
激しいバイオレンス描写を独特の映像感覚で綴り、1級品のエンターテイメントに仕上げたレフンが、再びライアン・ゴズリングと組んだ『オンリー・ゴッド』の出来はいかに?

ん~。。。つらい!
いや、つまらない訳ではないんですよ。
『ドライヴ』でもうっすらと感じられた、量産型ハリウッドアクション映画への嫌悪感を、よりはっきりとした形で描こうとしたことは理解できます。
いわゆる”アンチ・ハリウッド”映画として、一定の評価をされるべき作品ではあるでしょう。
しかしですね、借り物はまがい物にしかならないんです。

どういうことかと言えば、完全にアレハンドロ・ホドロフスキーにかぶれちゃってるんですよ。。。

『エル・トポ』や『ホーリー・マウンテン』で知られるホドロフスキーは、「映画は監督の物」と公言して憚らない、稀代の奇才監督。
口八丁手八丁で様々なジャンルの天才たちをメロメロにする人たらしでもあり、使えるものはなんでも使って、自分の作りたいものを妥協せずに作っていくアーティストでもあります。

そんなホドロフスキーに、レフンが入れ込むのもわかるんです。
しかし、”作家主義”のホドロフスキーの映像スタイルを模倣することは、当然ながら”作家主義”ではありません。
ファンの2次創作のようなもので、そこにはレフンの魂が宿らないんですよ。

オンリー・ゴッド』において、ハリウッド的マッチョイズムをアジア的マッチョイズムで否定するというアイディアは、非常にユニークな発想だと思います。
だからこそ、目に見えるホドロフスキースタイルに頼らず、目に見えないホドロフスキーのアート精神を真似していれば、本作はレフンの代表作になっていた可能性すらあるでしょう。
それだけに惜しいと思わざるをえません。

作家性とは、その人本人の個性をきっちりと押し出すことであり、映像スタイルではありません。
アート的ではなくとも、マイケル・ベイなんて作家性全開だと思いません?(笑)

レフンが自らと真摯に向き合い、レフンにしか作れない作品を生み出す日が来ることを、私は切に願います。

『人魚伝説』映画を殺したのは誰だ(ネタバレなし)

こんにちは、じぇれです。

今日は前置きなしに行ってみましょう。
凄い作品ですよ~!

《地獄の映画100本ノック その8 『人魚伝説』》

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撮影所システムが崩壊した1982年。『太陽を盗んだ男』の鬼才・長谷川和彦監督の下に新進気鋭の監督達が集って、監督主導の映画作りを目指したのが、かのディレクターズ・カンパニー。
様々な問題が起き10年で幕を閉じたものの、『逆噴射家族』『台風クラブ』『ウホッホ探検隊』『DOOR』といった話題作・意欲作を多数生み出しました。

その記念すべき長編映画第1作が、池田敏春監督の『人魚伝説』なのです。

それだけに、気合いの入りまくった妥協なき作品で、クライマックスは呼吸も忘れるほど。

鑑賞直後の感想はこちら__

プロットを簡単に言えば、夫を殺された妻の復讐劇なのですが、そんな平凡な枠組みには収まり切らず、、、
情念に満ち満ちた映像世界は加速度的に肥大化し、気づけば我々観客をも飲み込んでしまうんです。
その凄まじさは、大傑作『太陽を盗んだ男』を彷彿とさせるほどのパワフルさ!

当時の原子力発電所推進計画への怒りを露わに、池田敏春監督は暴走していき、お嬢様系女優だった白戸真理さんは一糸纏わぬ姿で復讐の血まみれ女神に!

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いやぁ、白戸さんの豹変ぶりにはただただ圧倒されました。

とまぁ、気鋭の映画監督達が集まったディレクターズ・カンパニー第1作は、コンプライアンスとは無縁の社会派超絶エンターテイメントであり、同時に日本の”作家主義”の夜明けでもあったわけです。

「夫を殺したのは誰だ」という主人公の叫びは、私にはこうも聞こえます。

「映画を殺したのは誰だ」

製作委員会方式が蔓延る現在の日本映画界では、絶対に到達できない領域に、本作は踏み込んでしまっています。
まもなく2020年。ディレクターズ・カンパニーの魂を受け継ぐ監督集団が立ち上がってもいいんじゃないでしょうか?

ホント凄まじいので、皆さん観てください!

『アンチクライスト』何を感じるかは貴方次第(ネタバレあり)

ご無沙汰しております、じぇれです。

なぜblogが止まっていたかと言いますと、何をどのように書けばいいのか迷っていたからです。
今回の課題作は、解釈を巡って喧々囂々と議論されてきていますし、一切のネタバレなしに書くのは難しい作品。
かといって、あらすじを最初から最後まで書くのは、私の趣味じゃないんですよね。
今、映画blogでのネタバレが話題になっていますので、ちょっぴり私見を書きます。

あらすじだけ読んで観た気になってしまうことってありませんか?
私はあります。
それが問題で......。

かつて脚本家を目指していた私にとっては、プロット(ストーリーと考えていただいても可)は宝なんです。
脚本家や監督が心血を注いできたものですからね。
それをすべて、私のような部外者が書いてしまうことに、罪悪感を覚えてしまうんですよ。
しかも、私の駄文のせいで、「つまらなそう」と思う方がいたら、もはや営業妨害。

そんなわけで、上手なブロガーさん達が書いているのは気になりませんが、さして文才があるわけでもない自分が書いてしまうことには抵抗があるんです。

などと言いつつも、骨格をまとめたことならあるんですけどね。

とまぁ、あれこれ悩んだ結果、作品の展開を暗示するような表現は用いつつも明確には書かないスタンスで、今回はやってみます。

※全く情報を入れたくない方はお気をつけください。

《地獄の映画100本ノック その7 『アンチクライスト』》

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う~ん、こいつはずっ~と避けてきたヤツです。
いわゆる”鬱映画”や”胸糞映画”は嫌いじゃありません。トリアーも好物です。
しかし、こいつは。。。

かつてイクメンだった頃、誤って子供を傷つけてしまわないか、常に不安に苛まれていました。
「(抱っこしている時に)もしここでこけたら、子供は大怪我するんじゃないか?」
「(高い高いしている時に)古傷の腱鞘炎が再発したら、子供を落としてしまうんじゃないか?」
「(夜中寝ている時に)自分がきちんと見張っていないと、万が一呼吸が止まった時に気づけないんじゃないか?」

私の子供は新生児仮死状態で生まれてきました。
出産時、息をしていない息子を私は見ちゃっているんですよ。
それゆえ、せっかく蘇生してもらったこの命が再び失われるんじゃないかと、いっつもビクビクしていて、、、

アンチクライスト』の予告編には、そんな不安を呼び覚ますのに充分な破壊力がありました。
ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが、、、(+_+)(+_+)(+_+)

それでも覚悟を決めて観ましたよ。罰ゲームですから!
その直後の感想がこちら。

冒頭6分、激しく愛し合う夫婦とヨチヨチ歩きで徘徊する子供が交互に映され、悲劇が静かに描かれます。
その映像の美しさは素晴らしいのですが、私はショック死寸前。あと3分あったら、心臓が止まっていたことでしょう。

その後は、自分を責め心が病んでいく妻と、彼女を治せると自信満々の夫の、セラピーの日々が綴られていきます。

しかし、監督はラース・フォン・トリアー。夫の献身的な愛で妻が立ち直る、な~んて感動の展開にはなりません。

「女性を悪魔と決めつけた女性蔑視映画だ!」
「トリアーはやっぱりミソジニストだ!」

などと女性を中心に怒号が飛び交う一方__

「いや、自分は正しいと過信する男の愚かさを糾弾した作品だ!」

といった真逆の意見も見られます。

セデック・バレ』の時に詳述したように、”映画は観る人の写し鏡”だと私は考えています。
その人の持つ問題意識などが、無意識に反映されていくんですね。
ですから、どちらも正しいと思うんです。
観た人それぞれに受け止め方があるわけで。

では、私はどう考えたのか?
一言でいえば、ジェンダー云々ではなく、禁断の実を食べてしまったアダムとイブ、すなわち人間の愚かさを描いた作品だと感じました。

もちろん女性の悪魔性は描かれています。
同時に、すべてを知っていると過信する男性の愚かさも描かれています。
印象的なのは、夫の「そんな星座はない」という台詞。
目の前に星座が見えているのに、自分は学んだことがないので「ない」と断言してしまうんですよ。

その後『ミザリー』を彷彿とさせるから騒ぎが終わった後のラストでは、夫の背後にわらわらと人々が集まってきて......。

しかも、夫役は『最後の誘惑』で惑うイエス・キリストを演じたウィレム・デフォー

一見、魔女狩りによって、サタンに心を支配されていない人間が繁栄しているかにも思えるのですが、そいつは「そんな星座はない」と平気で言っちゃうヤツなんですよ。

やっぱりね、人間って愚かだよねぇ、って話なんだと私は思います。
夫が過信せず、自分勝手なセラピーなんて始めなければ、妻は立ち直れたのかもしれないんですから。
だからといって、妻にも色々問題がありますので、男がどうの女がどうのではなく、どっちも愚かだよねぇ、っていう。

長々と書いてきましたが、観る人の数だけ解釈が分かれるタイプの作品です。
私を含め誰かのレビューを読んで観た気にならず、興味があるのなら、是非ご自身で観てください。

かなりグロテスクな描写がありますので、あまり積極的にはオススメしませんが(笑)

『モンゴル野球青春記』たしかな感動がここにある(ネタバレなし)

こんにちは、じぇれです。

前回の『トールマン』を気に入り、同監督の『マーターズ』を初体験。すっかりパスカル・ロジェのダークながらも緻密な語り口に夢中になってしまっています。

やっぱり私は、画面を通して観客を殺しにかかるような映画が好きなんですよね。スプラッター表現にはあまり興味ないんですが、「観ているお前こそが悪いんだよ!」と責め立てると、心を抉られるのになぜか幸福感を感じるという。

「よし、こういうのをもっと探そう」と思ったのですが。。。

そんな中でも罰ゲームは続く!

というわけで、皆さんの推薦映画を観てblogを書く100本ノックを続けるとしましょう。

《地獄の100本ノック その6 『モンゴル野球青春記』》

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「超オススメなのに誰も観てくれない」という愚痴と共に薦めていただいた本作。

大丈夫。私は観ますよ。レンタルされている限り拒否権はありませんから!(笑)

お~、これは超良作!
『百円の恋』コンビ(監督:武正晴×脚本:足立紳)なので、一定のクオリティは期待していいだろうとは思っていたのですが、想像を超えてきました。

推薦してもらってよかった!

【あらすじ】
元高校球児の青年は、ひょんなことからモンゴルで野球のコーチをすることに。しかし、野球が根付いていないモンゴルでは、日本人の常識が通じない。おまけに民主主義改革による負の影響がモンゴルを蝕んでいて。それでも青年は、悩みながらも少しずつモンゴルになじんでいき......

「日本・モンゴル国交40周年記念映画」である本作は、異文化交流ものの定型を踏襲しながらも、しっかりとモンゴルの”今”を見つめようとしています。

実は原作があります。

関根淳『モンゴル野球青春記』

モンゴル野球青春記

モンゴル野球青春記

1995年からモンゴルで野球を教えた関根淳さんという方の実話なんですね。

余談ですが、劇中登場する日本代表チームは、松坂大輔投手を筆頭にすべて実名です。
(松坂投手役の俳優の投球フォームはそっくり! 当時はまだ投手だった村田修一さんも、雰囲気のよく似た俳優が使われています。野球ファンのじぇれ歓喜!)

作り手たちは、そのようなディテールの再現にも手を抜かず、関根さんが感じたであろうことを、丁寧にドラマに落とし込んでいるんですよ。

なので、しっかりと感情移入でき、ちょっぴりほろ苦い物語が心に刺さってきます。

こういう映画は、”百聞は一見にしかず”です。もしレンタル店や配信で見かけたら、是非とも観ていただきたいです。
野球に興味がない方でも問題ありません。むしろ野球を知らない方が、モンゴルの方々の心境とリンクできますしね。

というわけで、エグい物語にしか心が動かないのかなぁと思いかけていた私を、王道でしっかり感動させてくれた『モンゴル野球青春記』のレビューでした。

いいものはいいんだよ~!

『トールマン』人は見たい物だけ見たいように見る(ネタバレあり)

こんにちは、じぇれです。
今回のお題映画は、『マーターズ』で無数の観客を胸糞悪くさせた、奇才パスカル・ロジェ監督の『トールマン』!
本作は、私の好みをよく知る相互さんがお薦め下さったのですが、果たして気に入るのでしょうか?

※後半ネタバレがあります。ネタバレをする際には注意書きをつけますので、未見の方はご注意ください。

《地獄の映画100本ノック その5 『トールマン』》

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”ホラー秘宝”レーベルの映像が冒頭に流れるんですが、こいつが最大のミスリード要因になってるなぁ(笑)

というわけで、鑑賞直後の感想がこちら。

【あらすじ】ネタバレなし
18人の子供たちが連続して誘拐された、寂れた田舎町。人々は見えざる犯人を”トールマン”と名付けて恐れた......

都市伝説ホラーのような導入ですが、実はホラー映画ではありません。パスカル・ロジェ監督も語っている通り、純度100%のミステリー映画なんです。

緻密な脚本が素晴らしく、最後には色々と考えさせられること間違いなし。

未見の方は、ここから先は読まずに、ぜひ本編をご覧下さい。好みは分かれるでしょうが、かなりの秀作ですから!


=====ここからネタバレ全開!=====




=====本当にネタバレするよ!=====




=====じゃあ、書いちゃうよ!=====






【トールマンの正体】

本作では、息子を誘拐される悲劇のヒロインのように見えたジェシカ演じる女性こそが、子供たちを誘拐していた真犯人なんです。

ジェシカ・ビールズ=”トールマン”!

※厳密には単独犯ではないのですが、それは次章で。

実は、この仕掛けだけは、開始9分の「人々は”トールマン”と名付けた」というセリフで気づきました。というのも、私の大好きな小説に同じ仕掛けがあるんですよ。なので、男だと思われるあだ名を全面に出して、犯人を男だと誤認させるトリックなんだなぁとは分かっちゃったんですね。

それでも、本作は面白いんですよ。優れたミステリーは、ネタがわかっても面白いもので。
『トールマン』は、この仕掛けだけではない重層的な構造を持っていて、その緻密さに感服致しました。

【トールマンは何をしていたのか】

ヒロイン夫妻、寂れた町へ

聖人のような夫が人々の信頼を得る

人々の家庭事情を探り、劣悪な環境の子供をリストアップ

夫、死んだふりをして姿をくらます

夫、子供を誘拐する

妻と協力者、子供を洗脳する

夫、裕福な里親に子供を引き渡す

つまり、トールマン御一行は善意の誘拐をしていたというのが、本作の真相というわけです。

その上で、貧困の犠牲になる子供が増加している社会問題にスポットを当てることこそが、パスカル・ロジェ監督が意図したことです。

「さぁ、あなたはヒロインを責められますか」と。

この問題提起への答えは、各自で出すとしましょう。

【映画では人生の一部だけしか見ていないのに】
「人は見たいものしか見ようとしない」という名言がありますが、映画や小説では、その習性を逆手にとって、私たちを騙しにかかることがあります。

私たちは、登場人物の人生の途中からしか見せてもらえません。にもかかわらず、「仮死状態の赤ちゃんを蘇生するヒロイン」「町の変わり者にもコーヒーをあげるヒロイン」「子供と楽しそうに遊ぶヒロイン」を観ていると、「ヒロイン=いい人」と思い込み、それをどんどん膨らませてしまうんですよ。

さらに本作が上手いのは、それらのミスリード要素がすべて「ヒロイン=犯人」の伏線にもなっているということ。2度観ると、その無駄のなさに驚くはずです。

しかも、タイトルが出るまでの約10分間で根幹のセットアップは済ませてしまうんです。この手際の良さも、素晴らしいの一言。

考察ブログではありませんので、これ以上は書きませんが、実にクレバーで手間暇をかけた脚本と言わざるを得ません。

パスカル・ロジェ恐るべし!

というわけで、観客の心理を恐ろしいほど巧みに操る快作『トールマン』のレビューでした。

ついでに類似作をお薦めしたいのですが、こういうのは書いちゃうとネタバレですからねぇ。やめておきます!