シナリオの迷宮 ~あるいは(無恥がもたらす予期せぬ軌跡)

脚本愛好家じぇれの思考の旅。とりとめもなく綴っていきます。

『人魚伝説』映画を殺したのは誰だ(ネタバレなし)

こんにちは、じぇれです。

今日は前置きなしに行ってみましょう。
凄い作品ですよ~!

《地獄の映画100本ノック その8 『人魚伝説』》

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撮影所システムが崩壊した1982年。『太陽を盗んだ男』の鬼才・長谷川和彦監督の下に新進気鋭の監督達が集って、監督主導の映画作りを目指したのが、かのディレクターズ・カンパニー。
様々な問題が起き10年で幕を閉じたものの、『逆噴射家族』『台風クラブ』『ウホッホ探検隊』『DOOR』といった話題作・意欲作を多数生み出しました。

その記念すべき長編映画第1作が、池田敏春監督の『人魚伝説』なのです。

それだけに、気合いの入りまくった妥協なき作品で、クライマックスは呼吸も忘れるほど。

鑑賞直後の感想はこちら__

プロットを簡単に言えば、夫を殺された妻の復讐劇なのですが、そんな平凡な枠組みには収まり切らず、、、
情念に満ち満ちた映像世界は加速度的に肥大化し、気づけば我々観客をも飲み込んでしまうんです。
その凄まじさは、大傑作『太陽を盗んだ男』を彷彿とさせるほどのパワフルさ!

当時の原子力発電所推進計画への怒りを露わに、池田敏春監督は暴走していき、お嬢様系女優だった白戸真理さんは一糸纏わぬ姿で復讐の血まみれ女神に!

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いやぁ、白戸さんの豹変ぶりにはただただ圧倒されました。

とまぁ、気鋭の映画監督達が集まったディレクターズ・カンパニー第1作は、コンプライアンスとは無縁の社会派超絶エンターテイメントであり、同時に日本の”作家主義”の夜明けでもあったわけです。

「夫を殺したのは誰だ」という主人公の叫びは、私にはこうも聞こえます。

「映画を殺したのは誰だ」

製作委員会方式が蔓延る現在の日本映画界では、絶対に到達できない領域に、本作は踏み込んでしまっています。
まもなく2020年。ディレクターズ・カンパニーの魂を受け継ぐ監督集団が立ち上がってもいいんじゃないでしょうか?

ホント凄まじいので、皆さん観てください!

『アンチクライスト』何を感じるかは貴方次第(ネタバレあり)

ご無沙汰しております、じぇれです。

なぜblogが止まっていたかと言いますと、何をどのように書けばいいのか迷っていたからです。
今回の課題作は、解釈を巡って喧々囂々と議論されてきていますし、一切のネタバレなしに書くのは難しい作品。
かといって、あらすじを最初から最後まで書くのは、私の趣味じゃないんですよね。
今、映画blogでのネタバレが話題になっていますので、ちょっぴり私見を書きます。

あらすじだけ読んで観た気になってしまうことってありませんか?
私はあります。
それが問題で......。

かつて脚本家を目指していた私にとっては、プロット(ストーリーと考えていただいても可)は宝なんです。
脚本家や監督が心血を注いできたものですからね。
それをすべて、私のような部外者が書いてしまうことに、罪悪感を覚えてしまうんですよ。
しかも、私の駄文のせいで、「つまらなそう」と思う方がいたら、もはや営業妨害。

そんなわけで、上手なブロガーさん達が書いているのは気になりませんが、さして文才があるわけでもない自分が書いてしまうことには抵抗があるんです。

などと言いつつも、骨格をまとめたことならあるんですけどね。

とまぁ、あれこれ悩んだ結果、作品の展開を暗示するような表現は用いつつも明確には書かないスタンスで、今回はやってみます。

※全く情報を入れたくない方はお気をつけください。

《地獄の映画100本ノック その7 『アンチクライスト』》

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う~ん、こいつはずっ~と避けてきたヤツです。
いわゆる”鬱映画”や”胸糞映画”は嫌いじゃありません。トリアーも好物です。
しかし、こいつは。。。

かつてイクメンだった頃、誤って子供を傷つけてしまわないか、常に不安に苛まれていました。
「(抱っこしている時に)もしここでこけたら、子供は大怪我するんじゃないか?」
「(高い高いしている時に)古傷の腱鞘炎が再発したら、子供を落としてしまうんじゃないか?」
「(夜中寝ている時に)自分がきちんと見張っていないと、万が一呼吸が止まった時に気づけないんじゃないか?」

私の子供は新生児仮死状態で生まれてきました。
出産時、息をしていない息子を私は見ちゃっているんですよ。
それゆえ、せっかく蘇生してもらったこの命が再び失われるんじゃないかと、いっつもビクビクしていて、、、

アンチクライスト』の予告編には、そんな不安を呼び覚ますのに充分な破壊力がありました。
ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが、、、(+_+)(+_+)(+_+)

それでも覚悟を決めて観ましたよ。罰ゲームですから!
その直後の感想がこちら。

冒頭6分、激しく愛し合う夫婦とヨチヨチ歩きで徘徊する子供が交互に映され、悲劇が静かに描かれます。
その映像の美しさは素晴らしいのですが、私はショック死寸前。あと3分あったら、心臓が止まっていたことでしょう。

その後は、自分を責め心が病んでいく妻と、彼女を治せると自信満々の夫の、セラピーの日々が綴られていきます。

しかし、監督はラース・フォン・トリアー。夫の献身的な愛で妻が立ち直る、な~んて感動の展開にはなりません。

「女性を悪魔と決めつけた女性蔑視映画だ!」
「トリアーはやっぱりミソジニストだ!」

などと女性を中心に怒号が飛び交う一方__

「いや、自分は正しいと過信する男の愚かさを糾弾した作品だ!」

といった真逆の意見も見られます。

セデック・バレ』の時に詳述したように、”映画は観る人の写し鏡”だと私は考えています。
その人の持つ問題意識などが、無意識に反映されていくんですね。
ですから、どちらも正しいと思うんです。
観た人それぞれに受け止め方があるわけで。

では、私はどう考えたのか?
一言でいえば、ジェンダー云々ではなく、禁断の実を食べてしまったアダムとイブ、すなわち人間の愚かさを描いた作品だと感じました。

もちろん女性の悪魔性は描かれています。
同時に、すべてを知っていると過信する男性の愚かさも描かれています。
印象的なのは、夫の「そんな星座はない」という台詞。
目の前に星座が見えているのに、自分は学んだことがないので「ない」と断言してしまうんですよ。

その後『ミザリー』を彷彿とさせるから騒ぎが終わった後のラストでは、夫の背後にわらわらと人々が集まってきて......。

しかも、夫役は『最後の誘惑』で惑うイエス・キリストを演じたウィレム・デフォー

一見、魔女狩りによって、サタンに心を支配されていない人間が繁栄しているかにも思えるのですが、そいつは「そんな星座はない」と平気で言っちゃうヤツなんですよ。

やっぱりね、人間って愚かだよねぇ、って話なんだと私は思います。
夫が過信せず、自分勝手なセラピーなんて始めなければ、妻は立ち直れたのかもしれないんですから。
だからといって、妻にも色々問題がありますので、男がどうの女がどうのではなく、どっちも愚かだよねぇ、っていう。

長々と書いてきましたが、観る人の数だけ解釈が分かれるタイプの作品です。
私を含め誰かのレビューを読んで観た気にならず、興味があるのなら、是非ご自身で観てください。

かなりグロテスクな描写がありますので、あまり積極的にはオススメしませんが(笑)

『モンゴル野球青春記』たしかな感動がここにある(ネタバレなし)

こんにちは、じぇれです。

前回の『トールマン』を気に入り、同監督の『マーターズ』を初体験。すっかりパスカル・ロジェのダークながらも緻密な語り口に夢中になってしまっています。

やっぱり私は、画面を通して観客を殺しにかかるような映画が好きなんですよね。スプラッター表現にはあまり興味ないんですが、「観ているお前こそが悪いんだよ!」と責め立てると、心を抉られるのになぜか幸福感を感じるという。

「よし、こういうのをもっと探そう」と思ったのですが。。。

そんな中でも罰ゲームは続く!

というわけで、皆さんの推薦映画を観てblogを書く100本ノックを続けるとしましょう。

《地獄の100本ノック その6 『モンゴル野球青春記』》

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「超オススメなのに誰も観てくれない」という愚痴と共に薦めていただいた本作。

大丈夫。私は観ますよ。レンタルされている限り拒否権はありませんから!(笑)

お~、これは超良作!
『百円の恋』コンビ(監督:武正晴×脚本:足立紳)なので、一定のクオリティは期待していいだろうとは思っていたのですが、想像を超えてきました。

推薦してもらってよかった!

【あらすじ】
元高校球児の青年は、ひょんなことからモンゴルで野球のコーチをすることに。しかし、野球が根付いていないモンゴルでは、日本人の常識が通じない。おまけに民主主義改革による負の影響がモンゴルを蝕んでいて。それでも青年は、悩みながらも少しずつモンゴルになじんでいき......

「日本・モンゴル国交40周年記念映画」である本作は、異文化交流ものの定型を踏襲しながらも、しっかりとモンゴルの”今”を見つめようとしています。

実は原作があります。

関根淳『モンゴル野球青春記』

モンゴル野球青春記

モンゴル野球青春記

1995年からモンゴルで野球を教えた関根淳さんという方の実話なんですね。

余談ですが、劇中登場する日本代表チームは、松坂大輔投手を筆頭にすべて実名です。
(松坂投手役の俳優の投球フォームはそっくり! 当時はまだ投手だった村田修一さんも、雰囲気のよく似た俳優が使われています。野球ファンのじぇれ歓喜!)

作り手たちは、そのようなディテールの再現にも手を抜かず、関根さんが感じたであろうことを、丁寧にドラマに落とし込んでいるんですよ。

なので、しっかりと感情移入でき、ちょっぴりほろ苦い物語が心に刺さってきます。

こういう映画は、”百聞は一見にしかず”です。もしレンタル店や配信で見かけたら、是非とも観ていただきたいです。
野球に興味がない方でも問題ありません。むしろ野球を知らない方が、モンゴルの方々の心境とリンクできますしね。

というわけで、エグい物語にしか心が動かないのかなぁと思いかけていた私を、王道でしっかり感動させてくれた『モンゴル野球青春記』のレビューでした。

いいものはいいんだよ~!

『トールマン』人は見たい物だけ見たいように見る(ネタバレあり)

こんにちは、じぇれです。
今回のお題映画は、『マーターズ』で無数の観客を胸糞悪くさせた、奇才パスカル・ロジェ監督の『トールマン』!
本作は、私の好みをよく知る相互さんがお薦め下さったのですが、果たして気に入るのでしょうか?

※後半ネタバレがあります。ネタバレをする際には注意書きをつけますので、未見の方はご注意ください。

《地獄の映画100本ノック その5 『トールマン』》

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”ホラー秘宝”レーベルの映像が冒頭に流れるんですが、こいつが最大のミスリード要因になってるなぁ(笑)

というわけで、鑑賞直後の感想がこちら。

【あらすじ】ネタバレなし
18人の子供たちが連続して誘拐された、寂れた田舎町。人々は見えざる犯人を”トールマン”と名付けて恐れた......

都市伝説ホラーのような導入ですが、実はホラー映画ではありません。パスカル・ロジェ監督も語っている通り、純度100%のミステリー映画なんです。

緻密な脚本が素晴らしく、最後には色々と考えさせられること間違いなし。

未見の方は、ここから先は読まずに、ぜひ本編をご覧下さい。好みは分かれるでしょうが、かなりの秀作ですから!


=====ここからネタバレ全開!=====




=====本当にネタバレするよ!=====




=====じゃあ、書いちゃうよ!=====






【トールマンの正体】

本作では、息子を誘拐される悲劇のヒロインのように見えたジェシカ演じる女性こそが、子供たちを誘拐していた真犯人なんです。

ジェシカ・ビールズ=”トールマン”!

※厳密には単独犯ではないのですが、それは次章で。

実は、この仕掛けだけは、開始9分の「人々は”トールマン”と名付けた」というセリフで気づきました。というのも、私の大好きな小説に同じ仕掛けがあるんですよ。なので、男だと思われるあだ名を全面に出して、犯人を男だと誤認させるトリックなんだなぁとは分かっちゃったんですね。

それでも、本作は面白いんですよ。優れたミステリーは、ネタがわかっても面白いもので。
『トールマン』は、この仕掛けだけではない重層的な構造を持っていて、その緻密さに感服致しました。

【トールマンは何をしていたのか】

ヒロイン夫妻、寂れた町へ

聖人のような夫が人々の信頼を得る

人々の家庭事情を探り、劣悪な環境の子供をリストアップ

夫、死んだふりをして姿をくらます

夫、子供を誘拐する

妻と協力者、子供を洗脳する

夫、裕福な里親に子供を引き渡す

つまり、トールマン御一行は善意の誘拐をしていたというのが、本作の真相というわけです。

その上で、貧困の犠牲になる子供が増加している社会問題にスポットを当てることこそが、パスカル・ロジェ監督が意図したことです。

「さぁ、あなたはヒロインを責められますか」と。

この問題提起への答えは、各自で出すとしましょう。

【映画では人生の一部だけしか見ていないのに】
「人は見たいものしか見ようとしない」という名言がありますが、映画や小説では、その習性を逆手にとって、私たちを騙しにかかることがあります。

私たちは、登場人物の人生の途中からしか見せてもらえません。にもかかわらず、「仮死状態の赤ちゃんを蘇生するヒロイン」「町の変わり者にもコーヒーをあげるヒロイン」「子供と楽しそうに遊ぶヒロイン」を観ていると、「ヒロイン=いい人」と思い込み、それをどんどん膨らませてしまうんですよ。

さらに本作が上手いのは、それらのミスリード要素がすべて「ヒロイン=犯人」の伏線にもなっているということ。2度観ると、その無駄のなさに驚くはずです。

しかも、タイトルが出るまでの約10分間で根幹のセットアップは済ませてしまうんです。この手際の良さも、素晴らしいの一言。

考察ブログではありませんので、これ以上は書きませんが、実にクレバーで手間暇をかけた脚本と言わざるを得ません。

パスカル・ロジェ恐るべし!

というわけで、観客の心理を恐ろしいほど巧みに操る快作『トールマン』のレビューでした。

ついでに類似作をお薦めしたいのですが、こういうのは書いちゃうとネタバレですからねぇ。やめておきます!

『セデック・バレ』映画はあなたの写し鏡(ネタバレなし)

こんにちは、じぇれです。

週3本をノルマにしている”地獄の映画100本ノック”も、これで4本目。
まずまずいいペースですね。

また、せっかく100本もblogを書くので、いろんな切り口を試してみたいとも考えています。
というわけで、今回の後半はエッセイです。
今後ポエムもやろうかな(笑)

前置きはこれぐらいにして、お題作品発表!
『バーフバリ』に先駆けて、長尺でもアクションと踊りで観客を魅了し続けた、台湾発の実録映画『セデック・バレ』2部作です!

《地獄の映画100本ノック その4『セデック・バレ 第一部 太陽旗』『セデック・バレ 第二部 虹の橋』》

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時は1930年。清との取り決めで台湾を統治していた大日本帝国。それに不満を抱えた原住民たちが、大規模な抗日蜂起事件を起こしました。
本作は、その首謀者モーナ・ルダオを主人公にした実録ものであり、史実に脚色を加えた壮絶なアクション絵巻でもあります。
第一部143分、第二部131分、計274分の超大作を私がどう感じたかと言いますと__

面白い!
いや、やるせない!
第一部で丁寧に背景を描いているからこそ、『マッド・マックス』顔負けのアクション連打で突き進む第二部は、やるせなくてやるせなくて。

先祖代々伝わる掟(信仰)に則って、負け戦を仕掛ける原住民の男たち。
その男たちの決断のために、さらに辛い決断を強いられる女たち。
勇敢であろうと戦いに加わるも、”戦争”の現実に直面する子供たち。

蜂起の負の側面がこれでもかと描かれていて、とにかくやるせないんですよねぇ。

ここまでで映画に興味を持ってくれた方は、ぜひ鑑賞してみてください。
アクションの迫力も凄いですから!

さて、ここからはエッセイという名の駄文を綴ってみます。
こちらはお付き合いいただける方だけでいいですよ(笑)


【エッセイ:映画はあなたの写し鏡】

本作を「反日映画だ」と糾弾する声もあります。たしかに、主人公の敵は日本人であり、日本人がバッタバッタと斬られていく描写も多いんです。

例えば、普段から極端に反日に過敏な方は、「けしからん」と怒りだすかもしれません。
例えば、普段から極端に日本が嫌いな方は、「日本人を殺せ!」と興奮するかもしれません。

しかしながら、先述の通り、私は反日映画とは感じられませんでした。というのも、決して主人公を美化しすぎることなく、蜂起がもたらした負の側面にスポットを当てているからです。
また、酷い決断をする日本人もいますが、彼らの変化も描いているからです。つまり、単純な極悪人として描いているわけではないと感じたんですね。

さて、ここからが本題ですが、「反日映画ではない」とする私の意見が100%正しいと主張したいわけではありません。
反日だ!」と糾弾する方を断罪したいわけでもありません。

本作に限らず、ほんのちょっとの描写で映画を嫌いになることがあります。たとえ作り手が意図したものでなくとも、ある人にとってはとんでもなく不快に感じることがあるんです。

映画というものは、時に観客の写し鏡となります。その時の気分、その時の思想、その時の体調によっても、見え方が変わってしまうんです。

批判をするならば、全編をきちんと観た上で一度冷静になってから批判するのが理想ではありますが、嫌いになってしまったのに、冷静になるのも難しい話。

ですから、今の私にとっては反日映画でなくとも、これを反日映画と感じてしまう人がいることもまた、否定はできないんですよね。

また、作り手からすれば、慎重を期しても誰かを怒らせたり傷つけたりする可能性を0にはできないんです。

そう考えていくと、コンプライアンスってなんだろうって思います。どうやったって多彩な解釈をされるのですから、過度にコンプライアンスを気にして作っても意味がないんじゃないかと。

というわけで、作り手はもっとノビノビと作った方がいいと思います。
同時に、私たち受け手は、不快に感じた時に深呼吸をするぐらいの余裕が必要なんじゃないかとも思います。

映画の受け取り方には、これが絶対に正解というものはありません。感じてしまったら、それもまた正解。
ただし、いちいちそれをクレームにしてもあまり意味がありません。
だって、それはあなたが感じたことですから。

『仮面ライダーZO』特撮技術の可能性は無限だ!(ネタバレなし)

こんばんは、じぇれです。
罰ゲーム企画として始まったこのコーナー”地獄の映画100本ノック”も、今回で3本目になります。

※ちなみに”地獄の映画 / 100本ノック”ではなく、"地獄の / 映画100本ノック”。お間違いなきよう。

今回オススメいただいたのは、良作枠。
かつて”日本のジェームズ・キャメロン”と呼ばれていた雨宮慶太監督の『仮面ライダーZO』です!

特撮映画はあまり観ない私ですが、雨宮慶太監督の『ゼイラム』にはハマった記憶が。たしか2作目は初日に舞台挨拶付き上映で観たはず。


《地獄の映画100本ノック その3 『仮面ライダーZO』》

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作品同様、感想もこの140文字に詰め込みましたので、さしてblogに書くこともないのですが、簡単にアツアツポイントを綴っていきますね。

【①特撮技術のデパート!】
監督のインタビューによれば、48分という尺が大前提だったので、敢えて様々な特撮技術を盛り込んだとのこと。
実際、その使い分けが見事で、VFXに少々飽きていた私にとっては新鮮でした。

たしかに、チープですよ。人形を抱えてライダーが走っているのは間抜けですよ。
でもね、臨機応変に適材適所で使われた特撮技術は、どれも異様さを帯びているんです。

CG技術の進化は凄まじいのですが、私はこう言いたい。

「特撮は続ける。特撮技術は滅ぼさない!」

【②原点回帰の仮面ライダー!】
仮面ライダーは哀しき存在。
望んでもいないのに改造手術を受けさせられ、人間でなくなってしまったのですから!
それをきっちりと描いているのがいいですね。
だからこそ、ラストのシンプルなセリフが名言と化し、私たち観客の心に刺さるんです。

名台詞って、レトリックに凝れば生まれるものではありません。紡がれてきたドラマに相応しい言葉のチョイスであることが大事なんです。
その意味でも、ラストのたった4文字のセリフは、なるべくして名台詞になったと言えるでしょう。

私も一緒に叫びたい。
「○○○○!」と。
※名台詞はご自身でご確認ください。

【③ヴィランの設定の素晴らしさ】
ぎゅうぎゅうに特撮やアクションを詰め込んだ本作ですが、ヴィランの設定に一ひねりあるんです。
これが実に上手い。
テーマとリンクしていて、とても美しい物語を観てきたんだなと感じさせてくれます。
切ないなぁ。

【④モンスター造型のセンス!】
これは言葉にしても伝わりません。
観て!

ちなみに、私のお気に入りは蜘蛛女。
怖いけど、惹かれるんですよねぇ。

【最後に】
とまぁ、簡単に振り返ってきましたが、魅力は伝わりましたか?

本作は、平成に作られた昭和特撮です。CGが進化していく中で、昭和特撮の方向性も維持するべきだという強い意志を感じます。
いよいよ平成も終わりますが、今一度昭和特撮の良さに注目していただけたら幸いです。
決して過去の遺物ではなく、これからも人々を魅了できる現在進行形の文化であるはずですから。

特撮に栄光あれ!

『ガマの油』役所広司、監督に挑む(ネタバレなし)

役所広司さん、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞おめでとうございます!

というわけで、役所広司さんが監督に初挑戦した『ガマの油』を初鑑賞!

《地獄の映画100本ノック その2 『ガマの油』》
※核心に触れるネタバレはありませんが、メインテーマには少し言及します。

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なのですが......

とまぁ、初回時はノリきれないまま映画は終了。
脚本と演出がぶつかってしまっていて、”ガマの油”ならぬ”水と油”状態のように感じてしまったんですよ。

しかし、こんなモヤモヤした状態ではレビューを書けないなぁと、改めて2回目の鑑賞に挑みました!

さて、感想を書く前にちょっと余談を。

役所広司が組んできた名監督たち】
岡本喜八五社英雄今井正伊丹十三森崎東山下耕作、細野辰興、原田眞人小栗康平周防正行黒沢清今村昌平森田芳光市川準根岸吉太郎青山真治市川崑成島出三谷幸喜樋口真嗣井坂聡中島哲也木村大作......
(『ガマの油』以降では、三池崇史杉田成道沖田修一小泉堯史細田守是枝裕和白石和彌らも)

なんだこれ? 生きる日本映画史じゃないですか!
しかも、海外ではロブ・マーシャルアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、フランソワ・ジラールの作品にも!

これだけの名手達の演出を受けている名優ですから、自然と引き出しは多くなるのでしょう。
実際、引きを多用したオーソドックスな映画的画作りを中心にしつつも、凝ったアングルや編集を随所に散りばめています。
ただ、これが脚本と噛み合っているかというと......

【あらすじ】序盤のみ
主人公はデイトレーダー役所広司)。数億の金を動かし、時に豪快に笑う男である。
ある日、彼の息子(瑛太)は昏睡状態に陥る。その恋人(二階堂ふみ)からの電話に出た主人公は、息子と間違われ、そのまま息子のフリをする。
そして、そんな偽りの関係は続いていき......

【軸が見えない物語構造】
勿論最後まで観れば、役所監督が伝えたかったことはしっかりと伝わってきます。しかし、鑑賞中はずっと森を彷徨っている気分に陥ったんですよ。

簡単に言えば「何を見せられてるんだ!?」って感じ。

だって、おっさんがJKと恋人風にケイタイで話すだけでなく、益岡徹がオーバーアクトでガマの油売りを披露したり、唐突にガッハッハと笑い出したり、しまいにはクマと格闘し始めたりするんですよ......

しかも、そういうところで妙に凝った演出が加わるので、どうにも本筋がわからなくなってしまいました。

そもそもこのプロット自体が少々技巧的で、悪く言えば煩雑なんですね。
虚実入り乱れるシーンもあり、脚本家はある種の寓話に仕立てようとしたのでしょうが、これは新人監督(しかも主演兼任)には難易度が高すぎたんだと思います。

役所広司出演作でいえば、中島哲也監督作『パコと魔法の絵本』のような路線なんですけどねぇ。

【何を期待して観ればいいのか】
とはいえ、主人公が息子の恋人に語る最後の一言は心に沁みます。

詰め込みすぎで未整理な物語ですが、「主人公が大人としての自覚を持つまでの心の旅路」だと考えてください。
そうすれば、道中迷子にならずに、爽やかな感動を得られるかもしれません。
実際、2回目の鑑賞ではホロッとしました。

役所監督、もう少しストレートな脚本で、もう1作撮ってみませんか?

【最後に】
ちなみに、本作が二階堂ふみの映画初出演作とのこと。
感情むき出しで恋人にぶつかってくる女の子を元気に演じています。
デビュー作ですので上手いとは言えませんが、とても好感の持てるまっすぐさ。
二階堂ふみファンは観ましょう!