シナリオの迷宮 ~あるいは(無恥がもたらす予期せぬ軌跡)

脚本愛好家じぇれの思考の旅。とりとめもなく綴っていきます。

『アンチクライスト』何を感じるかは貴方次第(ネタバレあり)

ご無沙汰しております、じぇれです。

なぜblogが止まっていたかと言いますと、何をどのように書けばいいのか迷っていたからです。
今回の課題作は、解釈を巡って喧々囂々と議論されてきていますし、一切のネタバレなしに書くのは難しい作品。
かといって、あらすじを最初から最後まで書くのは、私の趣味じゃないんですよね。
今、映画blogでのネタバレが話題になっていますので、ちょっぴり私見を書きます。

あらすじだけ読んで観た気になってしまうことってありませんか?
私はあります。
それが問題で......。

かつて脚本家を目指していた私にとっては、プロット(ストーリーと考えていただいても可)は宝なんです。
脚本家や監督が心血を注いできたものですからね。
それをすべて、私のような部外者が書いてしまうことに、罪悪感を覚えてしまうんですよ。
しかも、私の駄文のせいで、「つまらなそう」と思う方がいたら、もはや営業妨害。

そんなわけで、上手なブロガーさん達が書いているのは気になりませんが、さして文才があるわけでもない自分が書いてしまうことには抵抗があるんです。

などと言いつつも、骨格をまとめたことならあるんですけどね。

とまぁ、あれこれ悩んだ結果、作品の展開を暗示するような表現は用いつつも明確には書かないスタンスで、今回はやってみます。

※全く情報を入れたくない方はお気をつけください。

《地獄の映画100本ノック その7 『アンチクライスト』》

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う~ん、こいつはずっ~と避けてきたヤツです。
いわゆる”鬱映画”や”胸糞映画”は嫌いじゃありません。トリアーも好物です。
しかし、こいつは。。。

かつてイクメンだった頃、誤って子供を傷つけてしまわないか、常に不安に苛まれていました。
「(抱っこしている時に)もしここでこけたら、子供は大怪我するんじゃないか?」
「(高い高いしている時に)古傷の腱鞘炎が再発したら、子供を落としてしまうんじゃないか?」
「(夜中寝ている時に)自分がきちんと見張っていないと、万が一呼吸が止まった時に気づけないんじゃないか?」

私の子供は新生児仮死状態で生まれてきました。
出産時、息をしていない息子を私は見ちゃっているんですよ。
それゆえ、せっかく蘇生してもらったこの命が再び失われるんじゃないかと、いっつもビクビクしていて、、、

アンチクライスト』の予告編には、そんな不安を呼び覚ますのに充分な破壊力がありました。
ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが、、、(+_+)(+_+)(+_+)

それでも覚悟を決めて観ましたよ。罰ゲームですから!
その直後の感想がこちら。

冒頭6分、激しく愛し合う夫婦とヨチヨチ歩きで徘徊する子供が交互に映され、悲劇が静かに描かれます。
その映像の美しさは素晴らしいのですが、私はショック死寸前。あと3分あったら、心臓が止まっていたことでしょう。

その後は、自分を責め心が病んでいく妻と、彼女を治せると自信満々の夫の、セラピーの日々が綴られていきます。

しかし、監督はラース・フォン・トリアー。夫の献身的な愛で妻が立ち直る、な~んて感動の展開にはなりません。

「女性を悪魔と決めつけた女性蔑視映画だ!」
「トリアーはやっぱりミソジニストだ!」

などと女性を中心に怒号が飛び交う一方__

「いや、自分は正しいと過信する男の愚かさを糾弾した作品だ!」

といった真逆の意見も見られます。

セデック・バレ』の時に詳述したように、”映画は観る人の写し鏡”だと私は考えています。
その人の持つ問題意識などが、無意識に反映されていくんですね。
ですから、どちらも正しいと思うんです。
観た人それぞれに受け止め方があるわけで。

では、私はどう考えたのか?
一言でいえば、ジェンダー云々ではなく、禁断の実を食べてしまったアダムとイブ、すなわち人間の愚かさを描いた作品だと感じました。

もちろん女性の悪魔性は描かれています。
同時に、すべてを知っていると過信する男性の愚かさも描かれています。
印象的なのは、夫の「そんな星座はない」という台詞。
目の前に星座が見えているのに、自分は学んだことがないので「ない」と断言してしまうんですよ。

その後『ミザリー』を彷彿とさせるから騒ぎが終わった後のラストでは、夫の背後にわらわらと人々が集まってきて......。

しかも、夫役は『最後の誘惑』で惑うイエス・キリストを演じたウィレム・デフォー

一見、魔女狩りによって、サタンに心を支配されていない人間が繁栄しているかにも思えるのですが、そいつは「そんな星座はない」と平気で言っちゃうヤツなんですよ。

やっぱりね、人間って愚かだよねぇ、って話なんだと私は思います。
夫が過信せず、自分勝手なセラピーなんて始めなければ、妻は立ち直れたのかもしれないんですから。
だからといって、妻にも色々問題がありますので、男がどうの女がどうのではなく、どっちも愚かだよねぇ、っていう。

長々と書いてきましたが、観る人の数だけ解釈が分かれるタイプの作品です。
私を含め誰かのレビューを読んで観た気にならず、興味があるのなら、是非ご自身で観てください。

かなりグロテスクな描写がありますので、あまり積極的にはオススメしませんが(笑)