シナリオの迷宮 ~あるいは(無恥がもたらす予期せぬ軌跡)

脚本愛好家じぇれの思考の旅。とりとめもなく綴っていきます。

『カメラを止めるな!』旋風を止めるな!(ネタバレなし)

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新宿K'sシネマを連日満席にし、倍のキャパを誇る池袋シネマロサのレイトショーすら完売状態の『カメラを止めるな!』。
チネチッタやジャック&ベティ、ついにはシネコンもその興行的価値に気づいた今、改めてその魅力を確認しておきたい。

①狡猾なインディーズ映画
本作は、無名監督が脚本・監督を務め、無名俳優しか出演していない。当然予算も少ない。それゆえ、チープに感じる部分は沢山ある。
しかし、インディーズ映画ファンは優しいのだ。「よしよし、これぐらい我慢するよ」ってな具合に。
本作を観ている観客も、おそらく序盤は我慢している。
しかし、、、このチープさすら計算だったことに気づかされる。上から目線で優しさをバラまく観客に対し、「ひっかかったなぁ。ヒッヒッヒ」と悪戯っぽく笑う上田慎一郎監督の笑顔が目に浮かぶ。
後は上田監督の手のひらで転がされるだけだ。そして、それが心地よくて仕方がない。
上田監督、恐るべし!

②最高のワークショップ映画
俳優育成のワークショップで選ばれたキャストなので、正直言えばスキルにバラつきがある。
しかし、彼らの個性を知り尽くした後で、上田監督が当て書きしているので、個々の人間性が最大限活かされ、俳優が皆イキイキしているのだ。
もちろん素のままという訳ではなく、役として演じるポイントもしっかりと用意し、スキルアップに適した脚本に仕上げていもいる。
しかも、役名を芸名とだぶらせているので、観客は知らず知らず彼らの名前を覚えている。
つまり、キャストにとっては、一生ものの名刺代わりの作品となった。
ワークショップ映画としてはカンペキと言わざるをえない。

③巧みな脚本だが、見たことのない構成ではない!
ここで一つ大事なことを書いておく。

”決して新しいアイディアの映画ではない! ”

映画でもドラマでも小説でも舞台でも、この構成は使われている。「観たことがない構成」という評判を真に受けて斬新なアイディアを期待したら、確実に肩すかしを喰らう。要注意!
しかしながら、本作の脚本はやはり素晴らしい。このスタイルの脚本としては定型ではあるが、手堅く有機的に絡めている。
しかも、その構成が現実とクロスしていくのが、心地よい感動を生み出す。
これは、難しいアイディアを思いついた監督が、それを避けずに自ら脚本を書いたからである。
そう、上田監督は逃げなかった。 スタッフやキャストを巻き込んで、茨の道を駆け抜けた。

観客の多くはこの疾走についていきたくなる。単なる応援ではない。一緒に走り抜けたくなるのだ。
この伴走は、それぞれの道での全力疾走に繋がる。ある者は自主制作映画に手を出し、ある者は日々の仕事に打ち込み、ある者は国会議員になるという夢のために走りだすかもしれない。
そう、『カメラを止めるな!』は日本人に活力を与える映画だ。低予算だからこそ、「俺も何かできるかも」と思わせてくれる。

さぁ、『カメラを止めるな!』旋風を止めるな!